『笑いのカイブツ』映画化決定! ツチヤタカユキ渾身の私小説【前夜】感想

小説

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伝説のハガキ職人、ツチヤタカユキ氏が綴る私小説【前夜】です。

 ケータイ大喜利のレジェンドからハガキ職人、構成作家時代の生々しい半生を残した代表作『笑いのカイブツ』はベストセラーで、来年には岡山天音さん主演のもと、映画化も予定されています。
(代表作『笑いのカイブツ』の感想はこちら⇒https://light-ocean.net/books/warainokaibutsu-review/

 笑いのカイブツ刊行から四年、お笑いから、表現から離れた場所で印税を食いつぶす生活を続けていたツチヤ。

伝説を求めて、死に場所を探していたツチヤが、今見えた世界とは。

絶望的で、退廃的で、陰鬱としている。
それでも、明日を生きていこうと強く思える一冊です。

それではどうぞ。

あらすじ

15才の時に芸人になりたいと思った。
でも、オカンに反対され、NSC(吉本の新人養成所)入りを断念。19才のとき、活路を開くために大喜利でひたすら経験値を積み上げることを自分に課し、睡眠時間3時間以外はすべてネタ出しに没頭。27才まではこの生活を続ける決意をする。
21才でケータイ大喜利でレジェンドの称号を獲得。24才で人気芸人のラジオ番組の作家になる。しかし、25才で心が折れる音を聞いた。限界だった。 そこまでの私闘の日々を綴った「笑いのカイブツ」を刊行するも、気がつけば、スーパー玉出のストロング缶と女に走る日々が続いた。
やがてなけなしの有り金を注ぎ込んでの海外逃亡。 そして、コロナ渦のなかで、僕は久しぶりに110円のボールペンを握っていた。再び、ノートをネタで真っ黒に埋め尽くすために。

絶望。逃亡。一縷の希望。「笑いのカイブツ」作者、恐らくこれが限界到達点。

小学館/前夜ページより(https://www.shogakukan.co.jp/books/09386613)

2017年、『笑いのカイブツ』がベストセラーになるも、それに続く表現が生まれなかったツチヤ。

著作の印税を食いつぶして、海外への放浪・酒・女に溺れる毎日を送っていた。

そんなある日、密着をしたいというテレビマンのために、一本の落語を作った。

お笑いに狂った著者が、もう一度お笑いと向き合うまでの、あまりに生々しい私小説。

感想

お笑いに狂った圧倒的表現力

 ラジオ時代からツチヤさんを知っていますが、この人から生み出された言葉には、人を魅了する引力のようなものがあります。
 今作の【前夜】も、ページを繰るたびに釘付けになるような言葉がたくさん記されていました。キレイな言葉ではないからこそ、心にワイヤーを引っかけられた感覚になるんですかね。

 人間が精液という白色の液体から始まるように、終わる時も、液体になれたらいいのに。
 氷が溶けて水になるように、あのアスファルトに染みこんで、消えてしまいたかった。

【前夜】p16より

 どれだけ自己と向き合って、嫌悪して、絶望したんだろうか。
そんなことを思わせる表現が散りばめられていました。

一度でも人生で絶望するほど負けたことがある人なら、きっと心に刺さると思います。

本当の意味で、ウソのない私小説

ツチヤさんの文章に心惹かれる一番の理由は、ウソがないからだと推察しています。

 そう言うと、「前作の笑いのカイブツなんて、脚色も絶対あるだろ!」と、異議を唱える人がいるかもしれません。

 たしかにツチヤさんの文章の中には、絶望的な現実と、そこから生まれた虚構の世界が入り混じっている、とは思います(笑いのカイブツなんか特に)。

 ただ、書き手の良く見せよう、自分の内面を曝け出して文字にしてやろうという気概がヒシヒシと伝わってくるんです。
 どうしても小説やエッセイって、自分を下げているようで(都合)良く書いてしまいがち。

けれど、ツチヤさんは、自分の愚かさ、惨めさ、狂気をありありと表現してくれます。

 作中の女性が言っていたように、どうしてもほっとけなくなる文章を書くんです。
ページを捲る手が止まることはありませんでした。

死に様ではなく、生き様を

 ツチヤさんのことをメディアでしか知らない、一ファンの意見ですが、ツチヤさんってすごく危うく映っていたんです。

 シド・ヴィシャスやお笑いスターなど伝説に憧れて、伝説の影を必死に追いかけて、そこで失敗したら死んでやろう。
そんな気迫がありました。

『笑いのカイブツ』を読んだ時も、この人は生き様より死に様を意識しているのだと。

だからこそ、今作の【前夜】を読んだとき、救われました。

かっこいい死に様より、泥臭い生き様を、この人がそう思ってくれたからこそ、同じように毎日を絶望して生きている人の光になりうると思います。

 そして、きっと一生交わることはできないけど、ツチヤさんと一緒にこの世界を生きていきたいと思えました。

 ツチヤさんが終盤に書いた、次世代を生む初期衝動の価値。
お笑いという世界ではないけれど、ツチヤさんの文章は、私のこれからの人生の初期衝動になりました、といつか伝えたいです。

ぜひ皆さんも、ご一読あれ。

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